彼女は過去に人を殺している。
警察には正当防衛だと言われ釈放されたが、
彼女の心には深い傷がついてしまった。
数ヶ月前、事件は起きた。
彼女は家族と国外へ旅行に出かけていたのだが、
その先で銃乱射の現場に出くわしてしまった。
彼女の家族も傷を負った。
彼女も必死で逃げた。
飛び交う銃弾の中、一人の男の背が近づいた。
それとほぼ同時に、犯人の一人と彼女は目が合ってしまった。
とっさに男の背に隠れた。
そして男に銃弾があたり、彼はその場で亡くなった。
彼女はあの時の事を今でも鮮明に覚えている。
何度も忘れようとしたが、
家族のいない家に一人で住んでいるからか、
どうしても寸刻みに思い出す。
「ごめんなさい」
「助けて」
その言葉ばかりがグルグルと回る。
今日は盾にしてしまった桐島という男性の墓を訪れた。
毎日家族と男性の墓へ、交互に訪れるのだ。
「今日は暑いので、ポカリスエットを持ってきました。」
いつものように綺麗に洗ったコップにポカリスエットを注ぐ。
「こんにちは。今日も暑いですね。」
男性のお墓参りに来ると、必ず道路付近に少年が立っている。
「あなたは、僕が守る」
おかしな返事をするなと思ったが、彼女は気にせず車に乗った。
すると、少年が近づきコンコンと、窓を叩く。
「今日はトンネルのほうへいっちゃダメだよ。崩れる。」
「へぇ〜教えてくれて有難う。じゃ今日は高速に乗らないで、下の路で帰るね。」
変な子だとはおもったが、少年が行ったとおりトンネルを通らず、下の路を選んだ。
別にどちらで帰っても、大して変わらないからだ。
田園を眺めつつ、彼女は車のラジオを聞いていた。
旅行先で起こった事件の犯人は、まだ数人逃げているそうだ。
実行犯は捕まったが、計画した首謀者が見つかっていない。
そんなニュースが流れてきたから、彼女はチャンネルを変えようとした。
「臨時ニュースです。
先ほど先日の大雨の影響で大きな地すべりが発生しました。
インターチェンジと付近の高速道路を巻き込み、負傷者が出ています。
その数は30名以上と見られており・・・・」
翌々日、彼女はいつもの時間に、彼の墓へやってきた。
あの少年はいないだろうかと探しながら。
「あなたは、僕が守る」
その声を聞き、彼女は振り向いた。
「この前は、ありがとう。」
「あれ、お兄ちゃんが教えてくれたんだ。」
少年は彼女がいつも訪れている墓を指差した。
「僕のお兄ちゃん。」
どうしていいか混乱している彼女に少年は淡々と話す。
「お兄ちゃん、怒ってないよ。ねぇ、あした、この病院に来て。病室にいるからね。」
少年は病院の名前と住所が書かれた紙飛行機を飛ばした。
そして、そのまま去った。
翌日、彼女はその病院を訪れた。
「あの、ここに桐島・・・っていう男の子、来ていませんか?」
「この子なら、今、手術中です。付き添いでしたら、4階へ上って下さい。」
4階では会った事のある女性がうつむいて座っていた。
「お久しぶりです」
「あなた・・・どうしてここに?」
「昨日、男の子に呼ばれて。手術の日だったんですね。彼には、お兄さんのお墓でよく会いました。だから、顔見知りなんです。」
「あなた、何言ってるの?あの子、ずっと寝たきりなのよ。昨日、やっと自分で起き上がって、手術が受けられるくらいにはなったから、今のうちにって。」
その日、少年は亡くなった。
「兄弟で私を守ってくれて有難う。」
葬儀で彼女は棺の少年に語りかけた。
「もう、気にしないで。お兄ちゃんはあなたを守るために近くへいったんだ。あなたは、僕たちの分も生きてね。」
少年の声が、聴こえたような気がした。
警察には正当防衛だと言われ釈放されたが、
彼女の心には深い傷がついてしまった。
数ヶ月前、事件は起きた。
彼女は家族と国外へ旅行に出かけていたのだが、
その先で銃乱射の現場に出くわしてしまった。
彼女の家族も傷を負った。
彼女も必死で逃げた。
飛び交う銃弾の中、一人の男の背が近づいた。
それとほぼ同時に、犯人の一人と彼女は目が合ってしまった。
とっさに男の背に隠れた。
そして男に銃弾があたり、彼はその場で亡くなった。
彼女はあの時の事を今でも鮮明に覚えている。
何度も忘れようとしたが、
家族のいない家に一人で住んでいるからか、
どうしても寸刻みに思い出す。
「ごめんなさい」
「助けて」
その言葉ばかりがグルグルと回る。
今日は盾にしてしまった桐島という男性の墓を訪れた。
毎日家族と男性の墓へ、交互に訪れるのだ。
「今日は暑いので、ポカリスエットを持ってきました。」
いつものように綺麗に洗ったコップにポカリスエットを注ぐ。
「こんにちは。今日も暑いですね。」
男性のお墓参りに来ると、必ず道路付近に少年が立っている。
「あなたは、僕が守る」
おかしな返事をするなと思ったが、彼女は気にせず車に乗った。
すると、少年が近づきコンコンと、窓を叩く。
「今日はトンネルのほうへいっちゃダメだよ。崩れる。」
「へぇ〜教えてくれて有難う。じゃ今日は高速に乗らないで、下の路で帰るね。」
変な子だとはおもったが、少年が行ったとおりトンネルを通らず、下の路を選んだ。
別にどちらで帰っても、大して変わらないからだ。
田園を眺めつつ、彼女は車のラジオを聞いていた。
旅行先で起こった事件の犯人は、まだ数人逃げているそうだ。
実行犯は捕まったが、計画した首謀者が見つかっていない。
そんなニュースが流れてきたから、彼女はチャンネルを変えようとした。
「臨時ニュースです。
先ほど先日の大雨の影響で大きな地すべりが発生しました。
インターチェンジと付近の高速道路を巻き込み、負傷者が出ています。
その数は30名以上と見られており・・・・」
翌々日、彼女はいつもの時間に、彼の墓へやってきた。
あの少年はいないだろうかと探しながら。
「あなたは、僕が守る」
その声を聞き、彼女は振り向いた。
「この前は、ありがとう。」
「あれ、お兄ちゃんが教えてくれたんだ。」
少年は彼女がいつも訪れている墓を指差した。
「僕のお兄ちゃん。」
どうしていいか混乱している彼女に少年は淡々と話す。
「お兄ちゃん、怒ってないよ。ねぇ、あした、この病院に来て。病室にいるからね。」
少年は病院の名前と住所が書かれた紙飛行機を飛ばした。
そして、そのまま去った。
翌日、彼女はその病院を訪れた。
「あの、ここに桐島・・・っていう男の子、来ていませんか?」
「この子なら、今、手術中です。付き添いでしたら、4階へ上って下さい。」
4階では会った事のある女性がうつむいて座っていた。
「お久しぶりです」
「あなた・・・どうしてここに?」
「昨日、男の子に呼ばれて。手術の日だったんですね。彼には、お兄さんのお墓でよく会いました。だから、顔見知りなんです。」
「あなた、何言ってるの?あの子、ずっと寝たきりなのよ。昨日、やっと自分で起き上がって、手術が受けられるくらいにはなったから、今のうちにって。」
その日、少年は亡くなった。
「兄弟で私を守ってくれて有難う。」
葬儀で彼女は棺の少年に語りかけた。
「もう、気にしないで。お兄ちゃんはあなたを守るために近くへいったんだ。あなたは、僕たちの分も生きてね。」
少年の声が、聴こえたような気がした。
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