物語「白いキャンパス」
2004年8月18日 ミニ小説第1部 始まり
深夜、15歳くらいの少年がガレキだらけの道を歩いている。
彼は探していた。
何の役にも立ちそうに無いものはそこら中に転がっているのに、
彼が望むものは見つからない。
探し始めて、何日経ったのだろう。
数日前、少年の家は火事に遭っていた。
風の強い日、一軒の火事が飛び火し、
近辺を焼き尽くしてしまった。
古い木造の家々は数日燃え盛った。
今はその焼け跡さえ片付けられることなく、
道端で人々は暮らしている。
(これからは一人で生きるんだ。でも僕にできることは・・・
絵を描くことだ。たくさん良い絵を描いて、売るんだ・・・)
そんな衝動に駆られ、彼はキャンパス用の板を探している。
「何を探しているの?」
不意に少年と同じ歳くらいで、
顔もどこか似ている少女が話しかけてきた。
「・・・・」
少年は反応しようとしない。
「話したくないの?それとも・・・話せないの?」
少女はいくらか話しかけてみるが、少年からの返事は無い。
「いつもひとりで居るみたいだね。うちに来ない?
辛うじて屋根があるだけで、何も無いけど、こんな時だし、
一緒にご飯食べない?」
「遠慮しとく。」
妙に大人びて少年は反応した。
初めての返事だったが、少女はそれを指摘しなかった。
辺りが紫がかり、
朝が来ようとしていたが、日の出にはまだ時間がある。
二人は次の日暮れに会おうと約束し、そのまま分かれた。
薄明かりの中、少年は眠りにつき、
少女は朝日の方へ去っていった。
第2部 雨
「雨、止まないね。」
少女は少年に話しかける。
”次の夕暮れ”に少年は約束どおりに来たのだ。
二人は雨宿りをしながら、会話をはじめた。
ただ、少女から話しかけ続けるということに、
変わりは無かった。
しかし、変化が起きた。
「君には、家族はいるの?」
少年が話しかけた。
「・・・火事で死んだわ。」
「ぼくと同じなんだね。こんなことしていて、いいの?」
「こんなことって?」
「ひとりでブラブラしてるだろ?」
少女は少し笑った。
「いつも、板を探してるみたいね。見つかった?」
「・・・まだ。」
「急いでさがしてるみたいだけど、どうしてそんなに急ぐの?」
少年は思いもかけない言葉に戸惑った。
雨は強さを増していく。
足元の水溜りが大きくなり、風も出てきた。
空を埋め尽くす雲は、まだ黒く横たわっている。
ふたりの間の時間が、しばらく止まっていた。
雨は一向に降り止まない。
「絵を、描かなくちゃいけないんだ。」
少女はこくりと頷いた。気づくと、風は止んでいる。
「これからは一人で生きていくんだ。仕事をして、お金を稼ぐ。
でも、僕には絵を描く事しかできない。」
「お金を稼いで、どうしたいの?」
「どうしたい、ってことじゃなくて、
今までは父さんが働いていてくれた、あのお金を、
今度は自分で稼ぐんだ。それだけのことだよ。」
「そのお金を稼いだら、どうするの?」
「・・・関係ないだろ。あっち行けよ。」
少女は悲しそうな顔をして立ち上がり、激しい雨の中を
とぼとぼと歩き去った。
少年はその後ろ姿をじっと見ていたが、呼び止めず、
少女から視線をそらした。
第3部 絵画
次の日、雨はピタリと止み、少年はいつものように探していた。
しかし今度は、キャンパス用の板ではなく、少女を探した。
声を張り上げ、彼は叫んだ。
今探さなければいけないのは、あの少女なのだと、
少年の中の何かが叫んでいる。
彼は、心のままに叫んだ。
「そんなに大声で呼ばなくても、聞こえるよ。」
少女は昨日の事など無かったかのように声をかけてきた。
「あ、あのさ・・・・昨日は、ごめん。」
「うん。・・・ねぇ、これ貰って来たから、絵、描いてくれない?」
「これ、どっから持ってきたの?」
「描いてくれるの?描いてくれないの?」
「分かった。描くよ。」
少年はポケットから黒のコンテを取り出した。
「じゃ、そこに座ってくれる?」
少女がくれた白いキャンパスを立て向きに置き、
安定するように近くに立てかけた。
被写体はガレキで埋まっている街と、
昨日雨で濡れてしまったモノを焚き火で乾かす人々、
そして、自分に話しかけてきた少女だ。
数時間経ち、絵が完成した。
少女は満足げに絵を見ると、
「じゃあ、もう帰るね。」と言って去ってしまった。
キャンパスを眺めると、裏には少年の父のサインが入っていた。
「・・・父さんが使うはずだった、キャンパスだ。」
第4部 見守られるもの
夜、少年は居酒屋に居た。
少年は大勢の大人に囲まれ、絶賛されていた。
同時に、久しぶりの楽しい時間と、温かい夕食に恵まれた。
つと、元美術館を経営していた館長が、少年の絵を覗いた。
「これは素晴らしい!新しい美術館が出来たら、是非、
うちのために絵を描いて下さらんか!」
思いがけず話が進み、少年は喜んだ。
(そうだ。あの子にお礼を言わなきゃ。あの子のおかげだ。)
そう思い、隙を見て席を離れようとした時、
近くにいた女性が声を上げた。
「これ、あなたのお母さんの小さい時にそっくりね!」
少年は驚いた。
深夜、15歳くらいの少年がガレキだらけの道を歩いている。
彼は探していた。
何の役にも立ちそうに無いものはそこら中に転がっているのに、
彼が望むものは見つからない。
探し始めて、何日経ったのだろう。
数日前、少年の家は火事に遭っていた。
風の強い日、一軒の火事が飛び火し、
近辺を焼き尽くしてしまった。
古い木造の家々は数日燃え盛った。
今はその焼け跡さえ片付けられることなく、
道端で人々は暮らしている。
(これからは一人で生きるんだ。でも僕にできることは・・・
絵を描くことだ。たくさん良い絵を描いて、売るんだ・・・)
そんな衝動に駆られ、彼はキャンパス用の板を探している。
「何を探しているの?」
不意に少年と同じ歳くらいで、
顔もどこか似ている少女が話しかけてきた。
「・・・・」
少年は反応しようとしない。
「話したくないの?それとも・・・話せないの?」
少女はいくらか話しかけてみるが、少年からの返事は無い。
「いつもひとりで居るみたいだね。うちに来ない?
辛うじて屋根があるだけで、何も無いけど、こんな時だし、
一緒にご飯食べない?」
「遠慮しとく。」
妙に大人びて少年は反応した。
初めての返事だったが、少女はそれを指摘しなかった。
辺りが紫がかり、
朝が来ようとしていたが、日の出にはまだ時間がある。
二人は次の日暮れに会おうと約束し、そのまま分かれた。
薄明かりの中、少年は眠りにつき、
少女は朝日の方へ去っていった。
第2部 雨
「雨、止まないね。」
少女は少年に話しかける。
”次の夕暮れ”に少年は約束どおりに来たのだ。
二人は雨宿りをしながら、会話をはじめた。
ただ、少女から話しかけ続けるということに、
変わりは無かった。
しかし、変化が起きた。
「君には、家族はいるの?」
少年が話しかけた。
「・・・火事で死んだわ。」
「ぼくと同じなんだね。こんなことしていて、いいの?」
「こんなことって?」
「ひとりでブラブラしてるだろ?」
少女は少し笑った。
「いつも、板を探してるみたいね。見つかった?」
「・・・まだ。」
「急いでさがしてるみたいだけど、どうしてそんなに急ぐの?」
少年は思いもかけない言葉に戸惑った。
雨は強さを増していく。
足元の水溜りが大きくなり、風も出てきた。
空を埋め尽くす雲は、まだ黒く横たわっている。
ふたりの間の時間が、しばらく止まっていた。
雨は一向に降り止まない。
「絵を、描かなくちゃいけないんだ。」
少女はこくりと頷いた。気づくと、風は止んでいる。
「これからは一人で生きていくんだ。仕事をして、お金を稼ぐ。
でも、僕には絵を描く事しかできない。」
「お金を稼いで、どうしたいの?」
「どうしたい、ってことじゃなくて、
今までは父さんが働いていてくれた、あのお金を、
今度は自分で稼ぐんだ。それだけのことだよ。」
「そのお金を稼いだら、どうするの?」
「・・・関係ないだろ。あっち行けよ。」
少女は悲しそうな顔をして立ち上がり、激しい雨の中を
とぼとぼと歩き去った。
少年はその後ろ姿をじっと見ていたが、呼び止めず、
少女から視線をそらした。
第3部 絵画
次の日、雨はピタリと止み、少年はいつものように探していた。
しかし今度は、キャンパス用の板ではなく、少女を探した。
声を張り上げ、彼は叫んだ。
今探さなければいけないのは、あの少女なのだと、
少年の中の何かが叫んでいる。
彼は、心のままに叫んだ。
「そんなに大声で呼ばなくても、聞こえるよ。」
少女は昨日の事など無かったかのように声をかけてきた。
「あ、あのさ・・・・昨日は、ごめん。」
「うん。・・・ねぇ、これ貰って来たから、絵、描いてくれない?」
「これ、どっから持ってきたの?」
「描いてくれるの?描いてくれないの?」
「分かった。描くよ。」
少年はポケットから黒のコンテを取り出した。
「じゃ、そこに座ってくれる?」
少女がくれた白いキャンパスを立て向きに置き、
安定するように近くに立てかけた。
被写体はガレキで埋まっている街と、
昨日雨で濡れてしまったモノを焚き火で乾かす人々、
そして、自分に話しかけてきた少女だ。
数時間経ち、絵が完成した。
少女は満足げに絵を見ると、
「じゃあ、もう帰るね。」と言って去ってしまった。
キャンパスを眺めると、裏には少年の父のサインが入っていた。
「・・・父さんが使うはずだった、キャンパスだ。」
第4部 見守られるもの
夜、少年は居酒屋に居た。
少年は大勢の大人に囲まれ、絶賛されていた。
同時に、久しぶりの楽しい時間と、温かい夕食に恵まれた。
つと、元美術館を経営していた館長が、少年の絵を覗いた。
「これは素晴らしい!新しい美術館が出来たら、是非、
うちのために絵を描いて下さらんか!」
思いがけず話が進み、少年は喜んだ。
(そうだ。あの子にお礼を言わなきゃ。あの子のおかげだ。)
そう思い、隙を見て席を離れようとした時、
近くにいた女性が声を上げた。
「これ、あなたのお母さんの小さい時にそっくりね!」
少年は驚いた。
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