夜更かし?

2004年10月25日 夜更かし
夜。細い三日月だけが静かに煌く。

「おい、駿(シュン)。いいとこに連れてってやるよ。来るか?」
隣の布団から、兄の声がした。
「行く行く!」
「よし。でも大兄には言うなよ。うるさいから」
「分かった。大兄ちゃんには言わないよ。」

兄弟はこっそり家を抜け出し、古い工場跡へやってきた。

「ここには何があるの?」
「まぁ、待てよ。」

兄は建物に近づき、扉を開けた。
「兄ちゃん、怒られない?」
周りをキョロキョロ見回して、駿はひっそり声で言った。
「大丈夫。ここは怒る人がいないから。」
ニタッっと笑って、兄は中へ入って行ってしまった。
「僕をひとりにしないでよー」
駿も、兄を追いかけて中に入った。

扉は駿が入ると同時にバタンと閉まってしまった。

駿は怖くなったので兄に走り寄り、体をギュッとつかみ、すがりついた。
「ねぇ、もう、いいよ。」
「何言ってんだよ。灯りも持ってきてるし、大丈夫さ。
よく見てろよ。」
そう言って兄は懐中電灯のスイッチを入れる。

「っ!」

駿は驚きひっくり返った。
兄の懐中電灯の光に映し出されたのは、大量の手榴弾だった。

「兄ちゃん・・・か、帰ろうよ・・・。」
「なんだ駿。怖がりすぎだ。
不発モンだし、触らなきゃ大丈夫だって。」
「ち、違うよ。その裏・・・。」
「裏?」

恐る恐る光を手榴弾の影に持っていく。
そこに映し出された物は死体。

彼らは家へと一目散に逃げ帰った。

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「に、兄ちゃん・・・」
「怖くて確認できなかったけど・・・あれは誰だったんだろう?」
「もう、行きたくないよ!」

布団の上で兄弟は震える。

「ほんとに・・・死んじゃったのかな?」
「とにかく、明日警察にいこう。」
「うん。」

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「お早う。二人とも寝坊だ。学校遅刻するなよ。」
「・・・おはよう。」
「おはよう。大兄ちゃん。」

目を擦りながら二人は食卓につく。

「なんだ、今日は大人しいな。・・・駿。目が腫れてるぞ。」
「え、あ・・・。何でもないよ。」
「母さんの夢でも見たのか?」
「あの・・・」
「そうだよ。こいつ昨日、『お母さーん』ってまた泣いてさ。俺もそれで眠れなかったんだよ。駿、気持ちは分かるが、いつまでも泣くな。男だろ。」
「そうなのか?駿。」
「・・・うん。」

大兄は疑わしい顔をしていたが、そのまま、いつものように仕事に行った。

「よし。行こう」

兄弟は自転車に二人乗りをして、再び工場跡へ向かった。

「兄ちゃん、警察は?」
「人が寝てただけで、実は生きてたって可能性もある。
俺らは見ただけなんだからな。だから、まず確認だ。」
「えー!あんなとこ行きたくないよ!」
「じゃ降りろ。」

兄ちゃんは自転車を止めた。

「降ろさないで!」
「じゃ来るんだ。」

駿は乗り気がしないまま、兄にしがみつく。
昨日の夜よりも早く、工場跡に着いた。

「ホントに入るの?」
「嫌ならここで待ってろ」

駿はひとりで待つのも恐ろしかったが、中に入る勇気が出なかった。

「・・・・待ってるからね!」
「すぐ戻る」

駿は自転車の側で兄ちゃんを待った。

「すぐ戻るって言ったのに・・・」

兄ちゃんが帰ってこない。

「に、兄ちゃん!」

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