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扉をそっと閉めて、工場から兄が走り出てきた。
「駿・・・・いいか。よく聞け。大兄ちゃんに伝えるんだ。自転車に乗れ。」
駿はこくりと頷いた。そして素早く足の届かない自転車にまたがる。
「この倉庫には旧過激派が居る。俺は警察に行く。お前は大兄の勤めてる現場に行くんだ。今日はそんな遠くない。お前でもいける。大兄には、とりあえず警察に来てくれと言うんだ。仕事なんかしてる場合じゃないと言って呼び出せ。いいな。」
駿はことが重大そうな事を感じ取り、黙って頷いた。
「よし。・・・これだけは言っとくぞ。冗談じゃないからな。」
「・・・何?」
「必ず、生きて帰る。お前も必ず生き延びろ。落ち合うのは、川の途中にある池の木が茂ってるところだ。場所は分かるな?」
「うん。」
「よし。・・・何があっても慌てるな。」
「うん。生きて会おう、兄ちゃん。何かわからないけど、池が待ち合わせ場所だね。」
「お前は母さんに似てるな。・・・じゃ。」
兄ちゃんは警察署へ走っていった。
駿もペダルを何とか漕ぎ、大兄ちゃんのいる家屋取り壊し現場へ向かう。
「大兄ちゃん!」
大兄ちゃんは仲間と足場を組み立てている所だった。
「大兄ちゃん!」
「・・・駿。現場に来るなと前に言ったのを忘れたのか。帰れ。」
「大兄ちゃん。大変!とにかく来て!」
「だめだ。」
「大変なの!仕事してる場合じゃないよ!」
「仕事しなけりゃ食っていけないだろうがっ!」
「中兄ちゃんが!」
「おい、田中、いいかげんにしろー。早く弟に帰ってもらえ。邪魔だ。」
「すいません。」
「大兄ちゃん。・・・中兄ちゃん、死んじゃうかもしれないんだ。」
「・・・本当に何かあったのか?」
駿は今にも泣き出しそうだった。
「・・・しょうがない・・・。
また、新しい仕事場を探さなきゃならないな。
親爺さん!すいません。
俺、ちょっと用事が出来たので今日は失礼します。」
「お前、それがどういうことか分かって言ってんのか?」
「はい。」
大兄ちゃんは笑顔だった。
「お世話になりました。皆さんも。事故にお気をつけ下さい。
それから・・・お元気でいて下さい。では。」
大兄ちゃんは足場から降り、深々と現場に頭を下げた。
「惜しいヤツだ。腕は良いのにな。恩を仇で返されちまった。」
親爺さんも笑っていた。
大兄ちゃんはもう一度親爺さんに頭を下げ、背を向けた。
「何だ、駿。詳しく話せ。」
大兄ちゃんは自転車に跨り、駿を後ろに乗せ進みだす。
「中兄ちゃんが、絶対生きろって。」
「それだけじゃ何がなんだか分からない。」
「でも・・・」
「重大そうだと思ったんだろ?分かってるよ。だから仕事もやめたんだ。」
「うん。」
大兄ちゃんの大きな背中の中で、駿は泣いた。
怖かった。安心した。でも、中兄ちゃんが死んじゃうかもしれない。
再び大きな恐怖に駆られ、震えだした。
「駿。大丈夫だ。亮は何が言ってなかったか。」
「川の途中にある池の・・・・木の茂ってるところで待ち合わせだって。今、中兄ちゃんは警察に行ってる。」
「捕まったのか?!」
「違うよ。キ・・・・ナントカゲキハ・・っていうのが、工場跡にいるからって。知らせに行ったんだ。」
「工場跡に行ったのか。ダメだと言った理由を言った筈だぞ。」
「・・・だって・・・」
「もう良い。まずは池だ。あそこは前の俺らの家だからな。仲間も居るはずだ。駿、あそこで待っていられるか?」
「え・・・あそこで・・・」
「待ち合わせ場所だから仕方ない。それに、俺に付いて来たほうが危険だ。旧過激派がいたとすると、亮が一番に狙われる。」
「え・・・・・・」
「あいつは幹部だったからだ。旧過激派の。
・・・お前にはまだ難しいな。」
「大兄ちゃんは?・・」
大兄ちゃんは、ははっと楽しげに笑ったが、そのあとは少し寂しそうだった。
扉をそっと閉めて、工場から兄が走り出てきた。
「駿・・・・いいか。よく聞け。大兄ちゃんに伝えるんだ。自転車に乗れ。」
駿はこくりと頷いた。そして素早く足の届かない自転車にまたがる。
「この倉庫には旧過激派が居る。俺は警察に行く。お前は大兄の勤めてる現場に行くんだ。今日はそんな遠くない。お前でもいける。大兄には、とりあえず警察に来てくれと言うんだ。仕事なんかしてる場合じゃないと言って呼び出せ。いいな。」
駿はことが重大そうな事を感じ取り、黙って頷いた。
「よし。・・・これだけは言っとくぞ。冗談じゃないからな。」
「・・・何?」
「必ず、生きて帰る。お前も必ず生き延びろ。落ち合うのは、川の途中にある池の木が茂ってるところだ。場所は分かるな?」
「うん。」
「よし。・・・何があっても慌てるな。」
「うん。生きて会おう、兄ちゃん。何かわからないけど、池が待ち合わせ場所だね。」
「お前は母さんに似てるな。・・・じゃ。」
兄ちゃんは警察署へ走っていった。
駿もペダルを何とか漕ぎ、大兄ちゃんのいる家屋取り壊し現場へ向かう。
「大兄ちゃん!」
大兄ちゃんは仲間と足場を組み立てている所だった。
「大兄ちゃん!」
「・・・駿。現場に来るなと前に言ったのを忘れたのか。帰れ。」
「大兄ちゃん。大変!とにかく来て!」
「だめだ。」
「大変なの!仕事してる場合じゃないよ!」
「仕事しなけりゃ食っていけないだろうがっ!」
「中兄ちゃんが!」
「おい、田中、いいかげんにしろー。早く弟に帰ってもらえ。邪魔だ。」
「すいません。」
「大兄ちゃん。・・・中兄ちゃん、死んじゃうかもしれないんだ。」
「・・・本当に何かあったのか?」
駿は今にも泣き出しそうだった。
「・・・しょうがない・・・。
また、新しい仕事場を探さなきゃならないな。
親爺さん!すいません。
俺、ちょっと用事が出来たので今日は失礼します。」
「お前、それがどういうことか分かって言ってんのか?」
「はい。」
大兄ちゃんは笑顔だった。
「お世話になりました。皆さんも。事故にお気をつけ下さい。
それから・・・お元気でいて下さい。では。」
大兄ちゃんは足場から降り、深々と現場に頭を下げた。
「惜しいヤツだ。腕は良いのにな。恩を仇で返されちまった。」
親爺さんも笑っていた。
大兄ちゃんはもう一度親爺さんに頭を下げ、背を向けた。
「何だ、駿。詳しく話せ。」
大兄ちゃんは自転車に跨り、駿を後ろに乗せ進みだす。
「中兄ちゃんが、絶対生きろって。」
「それだけじゃ何がなんだか分からない。」
「でも・・・」
「重大そうだと思ったんだろ?分かってるよ。だから仕事もやめたんだ。」
「うん。」
大兄ちゃんの大きな背中の中で、駿は泣いた。
怖かった。安心した。でも、中兄ちゃんが死んじゃうかもしれない。
再び大きな恐怖に駆られ、震えだした。
「駿。大丈夫だ。亮は何が言ってなかったか。」
「川の途中にある池の・・・・木の茂ってるところで待ち合わせだって。今、中兄ちゃんは警察に行ってる。」
「捕まったのか?!」
「違うよ。キ・・・・ナントカゲキハ・・っていうのが、工場跡にいるからって。知らせに行ったんだ。」
「工場跡に行ったのか。ダメだと言った理由を言った筈だぞ。」
「・・・だって・・・」
「もう良い。まずは池だ。あそこは前の俺らの家だからな。仲間も居るはずだ。駿、あそこで待っていられるか?」
「え・・・あそこで・・・」
「待ち合わせ場所だから仕方ない。それに、俺に付いて来たほうが危険だ。旧過激派がいたとすると、亮が一番に狙われる。」
「え・・・・・・」
「あいつは幹部だったからだ。旧過激派の。
・・・お前にはまだ難しいな。」
「大兄ちゃんは?・・」
大兄ちゃんは、ははっと楽しげに笑ったが、そのあとは少し寂しそうだった。
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